富裕税について再考する。
唐突だが、最近とある活動団体?が「超富裕層に5%の富裕税をかければ世界の何十億人の貧困が救われる」というレポートを出し、多少ニュースになっていた。
「富裕税」は定期的に話題になったり報道される。本日はその是非は別として、現実的税率?をケチな資産家(求職中求職中と念仏を唱えていられる位に余裕のある、もしかしたら資産課税を取られる側になるかもしれない側)の見方として題材とする。
ちなみに件のレポートでは、「数百万ドル以上の資産を所有する人達からその資産額の5%を毎年徴収すると、年200兆円になってそれが20億人の貧困を救う」という計算だ。
「世界の貧困解消」は壮大すぎるとして、多少現実的にこれを日本国内に当てはめると、例えば「野村総研の富裕層ピラミッド(2021年)」で「資産1~5億円」の「富裕層」と「資産5億円以上」の「超富裕層」が対象な対象と考えられる。全部で148万世帯、その資産合計364兆円だから、18兆円が捻出される計算になる。
その家族を考えると、日本は一世帯平均2.6人として、大体364万人で国民の35人に1人が当事者といったところか。ごく限られた大金持ち対象というよりは、結構な人数に影響が及ぶ。
ところで、税額計算で元にする資産額の時価をいつにするか、法人をどう扱うか、また負債・借金をどのように扱うか等、公平性に不透明が多く問題山積であるが、それは度外視する。
さて、富裕税を含めどのような税でも「課税対象とならない人達」から見れば「取れるところから」「取れるだけ」取るのが、すなわち税率は高ければ高い程、一応メシウマ状態となるから歓迎されると仮定する。
では例えば一般的な「資産売買差益(金融資産、不動産、貴金属等を売買して得る利益)」に対し、メシウマなんだからとできるだけ高く、超高率100%にしたらどうなるか?
利益を全部どうせ持っていかれるから、誰も資産売買しなくなって、経済が停滞して全体で深刻なマイナスの影響があるのは良い?としても、売買が無くなれば肝心の税収が無くなり「元の木阿弥」となる。
だから、その間で「効率良く」徴税できる(と予想される)税率に落ち着くのが合理的だ。富裕税も同様に考えるのが自然だろう。
ではどれくらいが適当だろうか。
投資家の「自己中」目線だが、富裕税が「毎年資産額の3~5%」だと、唯唯諾諾、付和雷同、漫然黙々、と資産税、富裕税を払い続けるのは、資産額が多い人程抵抗がある。なぜなら「投資の効率」が単純に悪い。多くは何か合法的な回避策を考えると予想する。
「単純に悪い」とはどういう事かというと、株式投資効率は大雑把に年平均6%として、そこから富裕税で資産総額の3~5%を毎年払うとすると、差し引きリターンは大まかに2.8~4.9%(=1.06×0.95から1.06×0.97)に随分落ちる。
ここで重要なのは、リスク不変(低下しない)なのにリターンだけが自動的に差し引きで「1%以上」も落ちる事だ。投資家にとって「リスクとリターン」は常時一体で連動するはずなのに、最低1%以上収益だけが悪化する不条理は「効率が悪い」と考えるだろう。
「リターン1%程度の低下」は大した事がないと考えるかもしれないが、これが中長期間だと、もう1つの投資家の金科玉条である「複利」で大きく差が出る。4.9%と6%では、複利で10年後の合計で18%、20年後合計で60%変わる。
「効率よく徴税して納税額をできるだけ最大化する」のが目的とすると、投資家に「富裕税で投資効率が極端に悪化する」と思わせる事でその「目的達成」にどのような効果・影響があるかハッキリ分からないが、もう少し穏健な数値の方が全体の徴収額増加には、良いという考えもできるだろう。
一方で、「超富裕層の投資非効率回避、結構結構、資金流出も上等だ、勝手に海外に行くなり、先に慈善団体に寄付してしまうなり、ファミリーオフィスとか法人化とかして何とか回避するなり、好きなように右往左往しろ、どっちにしろメシウマだ、俺たちは「黙って納税する資産家」からの税収だけで結構だ」というのも一理ある。
だが、メシウマより税収の最大化を目指すというのが所得再分配で考えて社会全体では合理的だから、交渉じゃないけれども、多少の交渉というか、値の模索は「机上の空論」としても意味があるかもしれない。
現在は「富裕税」が無いから0%で「受け入れられている」として、もし3%だと「難しい」としたら、その間に「丁度良い?」数値があるはずだ。
ここで少々強引だが別の面から考える。
それは、「貧困に苦しむ人達の救済」に一体、幾ら必要なのかだ。
前言を翻すようだが、そもそも、もし「救済にX兆円必要だからそのためには富裕税が20%になる」と前提があれば、例え「投資効率が極度に悪化」するにしても、貧困救済を重要として、継続納税して問題解決に協力しようという「篤志資産家」や、納得行かないがそれも社会の為と渋々払う資産家もいるかもしれない。高額納税者にとって、少なくとも裏付けのない「懲罰的な高率」を問答無用で迫られるより随分マシだ。
だが幾ら必要か、というのは「貧困」や「救済」の定義によって無数の計算方法があるから、ここは現実的な対象として「生活保護」を考える。数年前だが国内の生活保護負担金合計が年4兆円弱だ。
冒頭の計算だと、資産額1億円以上の148万世帯から資産額の5%徴収で年18兆円だったが、生活保護が「貧困救済」に繋がると仮定し、それを富裕税で負担するとなると、約1.11%(=5×4÷18)となる。
もちろん持続可能性の問題もあるし、経済状況や為替の影響も難しいし、そもそも依然として投資効率悪化は大きいし、一方これだけで貧困救済解決とはならないから誰も大満足ではないが、懲罰高税よりは低く、尚且つ現実制作の合理的な予算を基準としているから、一応歩み寄った調整値の一例となる。
最後に俺個人として、もし資産額が課税対象に掛かるほどあると仮定して、どうするだろうか?
正直1.11%でも非常に強い抵抗がある。気力があれば、移住でも法人化でも何でも、例え手間と時間を大きく取られても、節税対策を実行するかもしれない。
でも年齢や健康状態、その他条件によっては残された時間の有効活用の方を重要視し、1.11%位なら不承不承払うかもしれない。高齢だと先が相対的に短いから、時間を他に使うために受け入れる可能性がある。という事は年齢格差解消にも有効かもしれない。
だが仮にまだ先が長くて、富裕税5%だと、長期間節税とか、あるいはいっそどこかに寄付しようとか、とにかく節税を足掻いて考えてしまうだろう。どうだろうか。