大谷の通訳の件を、超富裕層になったつもりで、考える。
MLBは本格開幕したが、以前として日本の報道は本件ばかりという印象だ。関連して、以前賭博で処分を受けた往年の名選手(以下、「P」と略)が「俺にも通訳が居れば無罪放免だった」とかなんとかいったらしい。
PはMLBの通算安打記録保持者で、時々日米のメディアに取り上げられる。俺の見た限り、本人の発言にいつも滲み出ているのは「野球殿堂」に入れない事実への落胆ぶりだ。上記「俺にも通訳がいれば」というのもそうだ。とにかくMLBの選手にとっては殿堂入りはこれほどまでに名誉なのかと思い知らされる。
一方、Pだけでなく、ボンズとかクレメンスとか、他にも多くの、数字だけ見れば圧倒的な名選手が資格失効している。最近では主に「薬物関連」で避けられる傾向がある。
従って、大谷本人が今後殿堂入りにふさわしい活躍をするか、また実績を残しても本人が入りたがっているかどうか、は別として、「大谷の将来の殿堂入り」が本件により影響を受ける可能性は無視できない。決定権(投票権)を持つ人の中には大谷は窃盗、横領、詐欺の「被害者なだけ」であっても、「悪心象が拭いきれない」という勢力も居るだろう。
事件の真実は不明だが、もし金やその管理に無頓着だったのが要因としたら、それなりに高く付く事になる。所謂「金融リテラシー」とか、「情報の安全管理」とか、そういうのはそれをビジネスにしている専門家だけでなく、それ以外の人や普通の人?にも影響するという事だ。中高で教えてもよいだろう。
また、「印象の悪さ」に関連して、大谷の「給料後払い」についても、「節税のため」と見る人達や野球ファンが悪い印象を持っているという記事も読んだ。
俺の理解が正しければ、米国では州税率に差があってカリフォルニア州と収税無しの差が13%強もあり、大谷は先払いの給料を後に他州へ移住して払って節税しようとしているのがミエミエで、反感を持つ人も居る、という事らしい。
これなどは正に「超富裕層」にピッタリの大谷の話題なので、実際の彼の真意は永遠に分からないが、考察してみる。
結論から言うと、俺の考えでは「節税(だけが)目的」としたら「効率がとても悪い」ので他に目的が有ると思う。
そもそも州税率を利用し節税を目論む様なら、とても「金に無頓着」とは言えないから、本件の様な事件にもなりにくそうだが、それは置いておく。
まず第一に、もしこれが非常に有効な節税方法だとしたら、誰でもやれそうな節税方法だから、もっと多くの人がやるはずだが、そうではない。理由は各人で様々だが、一言でいえば州税以外の他にもっと大切な合理性が有るということだ。
スポーツのスター選手のほとんどは、大半を後払いにしたりしない。また、「給料を後払いにしてくれ」と希望する一般労働者も聞いたことがない。
もちろん「一般世帯」だと単に「生活に金が必要だから」というのもあるが、「一部だけでも後払いを会社に頼む」等という変わり者はほぼいないだろう。
つまり、大谷の後払いは「通常ではあまりない」理屈だと考えられる。節税などというのは、いってみれば「凡人考えの極み」である。
第二に「給料の大部分を10年後から20年に分けてもらう」というのは、州税ゼロであっても、経済的に考えて必ずしも得とは言えない。
まず、インフレになると、相対的に価値は下がる。
また、殖産の基本である「複利の恩恵」が極端に下がる。先送りした分は、10年間の複利を放棄するようなものだ。
そして、いちばん重要なのは、10年間であるはずの「節税より効率が良いかも知れない」投資機会を失う。
少し細かく考えて、税金だけで概算すると:
1)7億㌦をCA州(州税率13%とする)で毎年均等に貰って連邦税(最高税率37%で考える)と合わせて毎年納税する場合、税率は連邦+州で計50%だから、10年で3億5千万㌦納税して手元の元金も3億5千万㌦残る。
2)7億㌦CA州では一切貰わず、10年後から州税ゼロの場所に移住して、年7千万㌦貰うとする。連邦税が将来も同率として、7億×0.63で20年後に4億4千万㌦残る。
ここで投資を組み込み考える。
1)の場合、資産の成長率を毎年5%とすれば、複利が積み重なって20年で積立投資額の概算60%の資産増になる。3億5千万㌦×1.6=5億6千万㌦。
2)の場合も資産の成長率を毎年5%として、複利が積み重なるのは10年以降の10年間、積立投資額の概算30%の資産増になる。4億4千万㌦×1.3=5億7千200万㌦。
20年かけて、2%の差だ。経済効率が良いと言えるだろうか。しかも、インフレを考慮したら、差はなくなるどころか、逆転するかもしれない。
もっと重要なのは、1)は当初から手持ちの資金が結構あり、良い投資機会を待てる期間が長いという事だ。2)では12、13年くらい経てば資金は潤沢だが、逆に言えばそれまでは良い案件でも資金不足、あるいは投資量不足かもしれない。
しかも、仮定である「資産の成長率が毎年5%」はかなり穏健であり、資金量と期間を考えるともっと高い可能性がある。
先日、ボルチモア・オリオールズの買収がオーナー会議で了承された。売却額は17億2500万㌦、1993年に1億7300万㌦で買収したので、30年で10倍だ。複利で年8%だ。
もちろん、投資はどうなるかわからないが、例えば10年後大谷が引退したとして、もしドジャースの部分オーナーシップが売りに出ていたら、買いたいと思っても不思議はない。その時に3億5千万㌦あるとないとでは、大違いだ。その機会があっても買う金がないと、素晴らしい機会を逃してしまう。
引退もすぐしないだろうし、ドジャースは極端な例かも知れないが、何かやりたい、巨額の金で大きな事に挑戦したい、となった際に機会を逃さないよう準備するのは意味が有るし経済効率が良いといえると思う。
第三に、根本問題として、別の州へ移ると簡単に言うが、そう単純ではない。
残りのお金を「まとめて1回」でもらう予定で1年だけ住むのならアリかもしれないが、大谷は10年に分けるらしいので、それは外して考える。
一般人に於いても、物価の高いが移住先として魅力がある、東京に人口が集中する。節税のためとはいえ、それほど住みたくもない州へ、しかも10年間も、移住するだろうか。
まして大谷はFA後のチーム選びでも地理を重視していたらしい。税金の恩恵を受けるにはその州に「居住実績」が無ければいけない。
大谷がフロリダやテキサス(双方とも州税率0%)を気に入っていて永住を考えているならば問題は無いが、LAA→LADと15年以上もCA州、それもCA南部に居る予定だし、特に問題が無ければ近隣に居続けたいと思うのが自然だ。
しかも、経済合理性で言っても、考慮すべきは州税だけでなく、日本の消費税にあたる税率、日本の固定資産税にあたる税率、治安、日本への近さ、天候、引退後にやる事業へのアクセス、様々ある。総合的に大差無いとすれば、住み慣れた地域に留まるのは自然だ。
第四に、将来何が起こるか、分からない。
極端に言うと、ドジャースが経営破綻して払えないかもしれない。その場合補填されるのか知らないが、とにかくこの種の可能性は、後払いの経済合理性を低下させる。
その他、ドルが暴落とか、日本か米国の国情が悪化するとか、それこそ何かの事件に巻き込まれて支払いされなくなる事だって無いとは言えない。とにかく先に伸ばすほど、危険性がついて回る。
という事で、後払いは金勘定だけでは合理的では無いと思われる。ではなぜなのか?それは本人にしかわからないが、肯定的に取れば、それは自身が所属中は少なくともLADの経済負担を軽減して、チームの成功に繋げたいからだろう。どうだろうか。